キルとカズは保猫園に9匹の仔猫を抱えて帰って来た。

すでに、羽獣まで行った仔猫の能力値は、他の猫たちとは比べ物にはならなかったが、
ほんの数時間の内に、新しく猫になった仔猫たちはレベルを上げていった。

というか・・・最初から保猫室にいた仔猫たちが、9匹の仔猫に恐れをなし、
逃げ回るようになってしまった事もあるのだけど。



「この分だと、明日までには小猫校の方に引き渡す感じね」
溜息を付きながら、キルはカズを見た。
顎に手を当てて、カズは考え込んでいた。



「おぅ・・・まぁ・・・あれだ・・・俺の所でも数日・・・位だろな」



物怖じせず常に挑戦的な・・・仔猫にあるまじき行動を見て・・・
まぁ犬系の羽獣だったんだしと・・・嘆息した。
何しろ、9匹は群れるのだ・・・狼の群れのような・・・
そりゃ、猫科の動物で群れを成すものもいるけれど・・・
違和感が否めなかった。




その中で頭は、タケという一番最後に保護した金色の目を持つ真っ白な猫だった。

生前は、水のTOPだった男・・・氷澄が遠い未来から感謝の念を送り届けた・・・
その人生の最後の最後まで、氷澄を守り、尽くし続けたTOP洸洋だった。
その功徳か、因果応報というべきか、タケの能力値は べらぼうに高かった。

過去と見比べても、1、2を争うのではないかと・・・
成獣人になったら、向かう所 敵なしになるだろう事は、想像がついた。



仔猫の内にその魂を囚われなければ・・・の話だが・・・
どちらにしても、大切に育てなければいけない魂である事に変わりはない。



「アヤと関らせたくはないんだけど・・・」
「そりゃ、むりだろ・・・アヤを隠しとくわけにもいかない」



「あの子は僕にとって、とても大切な子なんだ・・・」
「予言に従って見つけ出した娘だからか?」



「・・・あの子の大切な人生を・・・僕は・・・」
「キルが見つけ出さなくても、奴等の餌食になっていたさ」


キルは不用意なカズの発言に無性に腹が立った。
「そんな事、わからないじゃないか」
「キル・・・アヤの家系、ちゃんと調べてみたか?」



「えっ?!」
「アヤの生前の名前・・・梶原彩音だろ・・・梶原家代々の調べてみたか」



「いや、アヤの曽祖父母まで・・・だけど」
「詰めが甘いな、キル」


ニヤニヤしたまま、それ以上言わないカズにキルが詰め寄る。


「何を知ってる、 正直に言って、カズ!」
「うーん・・・どうするかな」



「ちょっとそれ、どういうこと?」
「ははは、まぁ・・・自分の胸に聞けよ」



カズは逃げ出した。
キルは、途中まで追いかけたが、レベル上昇のため、
仔猫たちにリボンを付け直さなければならなくて・・・歯噛みした。
まったく。 絶対吐かせるんだからね、覚えてなさいよカズ!!

カズの出て行ったドアを見やり、そう呟いた。






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アヤは、水晶の鏡の前で精神を集中させていた。

けれど、ヒロちゃんと思われる羽獣は何処かへ消えてしまって、映るのは洞窟内だ。
男の人と目が合った。
どこか中性的なその人は、僕をじっと見詰めている。
グレーの瞳に見詰められて居心地が悪くなる。

まるで、僕が見ているのが向こうからも見えるみたいに。 まさか・・・ね。
その人は、すっと片手を上げて、そのまま映像ごと消えてしまった・・・えっ!!




それきり、水晶の鏡は、僕が神経を集中させても映らなくなってしまった。
はぁ・・・
あの人・・・誰だろ綺麗な人だったけど、でも僕の知り合いじゃないし。



うーん・・・と伸びをして、ブルッと身震いした。
気分転換してこようっと。





僕は先程居た巣穴の上の階段を登り始めて、探検し始めた。
巣穴のすぐ上にある横穴に入り込んだ。
奥までずっと続いている。 ここは、何のための穴かなぁ。


足元がゴツゴツしているのは、ちょっと嫌かも。
急に大きな空間に出た。 明るい・・・何?




目が慣れて、周りを見ると、バラに良く似た花が咲いている。 ギョッとした。
バラでないとわかるのは・・・バラが動いている・・・根っこが足のように蠢き歩いている。
赤や黄色やオレンジ、ピンク、朱色・・・色とりどりのバラの大群だ。
呆けてその場から動けなくなってしまっていた。




バラ達が僕を見つけたらしくワラワラと寄ってきた。
げげっ、僕は後退した・・・が、追いつかれて囲まれてしまった。
バラの花は僕に向かって香りをいっせいに吹きかけた。




ケホケホっ、何・・・これ・・・
僕の周りに一陣の風が集まり、バラたちをなぎ倒した。
あちこちから悲鳴が上がる。



悲鳴はバラ達があげているようだ。
煙くて、咳き込みながら目を開けると、バラ達が必死で飛ばされないように、
岩に掴まっているのが見えた。





僕の周りの風を落ち着かせ収めると、バラ達の言葉は僕の頭に直接流れ込んできた。
(あぁ、ビックリした。 誰よ乱暴なんだから!)
「あ、アヤみやー、ごめんみゃー・・・僕アヤみゃー」



(アヤ? あなた新しく来た巫子なの?)
「そう。 僕ここの洞窟で修行中みゃ。 君たちは、みゃみ」



(私達は、バラミュース うーん簡単に言っちゃうと魔草よ。 色で効能が違うの。 人間界には生息していないけどね)


「そうみゃんですか」
(黄色:フォイシアは石化、ピンク:フォータは水柱、赤:ファイティアは火炎 オレンジ:フィンディア竜巻、朱色:フルーペ 千里眼よ)


「・・・そう・・・みゃんですか」
魔草って何?とは聞けなくて・・・でもなんだか物騒な花のようである。




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(巫子ならば、バラミュースの種や蜜は必需品よ♪)
おいとましようと歩き出した僕の前を、真っ赤なバラが通せんぼした。



「たみぇ・・・と・・・みゅつですか・・・それって・・・みゃんに使うんですか」
(あら、だって・・・調合して呪術に使うでしょ! 嫌だわぁ〜)




黄色いバラが座り込んだ僕の尻尾に、まとわり付いた。
うぅっ、チクチクする棘が・・・僕の毛に引っかかるよぉ・・・
呪術・・・って・・・呪いの事だよね・・・そんなの僕は関係ないのに・・・
でも・・・覚えておいて損は無いか・・・よし!!



「あみょぉ・・・バラミュースのみみゃさん、僕にその調合の仕方教えて欲しいみゃ」




(ふふふっ、良いわよ・・・じゃこっちに来て)
オレンジ色のバラが僕を振り返り前を歩いていく・・・
周りのバラミュース達も一緒に歩く・・・
何だか僕・・・連行される様な気がするのは・・・気のせいかなぁ・・・





洞穴の中の小高い山の上には真っ白な柱と一面にバラが咲き誇っていた。
いや違う・・・一面のバラミュース達が鎮座していた・・・の間違いだ。
黄・桃・赤・橙・朱の色だ・・・さっきもちらっと思ったのだけど。
どうして白色のバラが無いんだろう・・・


近付くに連れ、その柱が、真っ白な女神像だとわかった。
目を伏せ、6対の翼を持ち、薄布のドレスを着た長い髪の女性の像だ。
優しい微笑で、小高い丘の上から、バラミュース達を見下ろしている。


女神像には3匹の蝶がとまっていた。
あっ!! あの蝶達は、 マオの巣穴に来た蝶だ!!水色とオレンジとピンク色の蝶だ!
僕は小走りになって近付いた。




女神像の前に座ると、水色の蝶が僕の目の前にヒラヒラと舞い降り光り輝いた。
眩しい!!!
思わず目蓋を閉じて横を向いた。




光が治まり、蝶の方を見ると、そこには、薄っすら透き通った人型がいた。
どきっ!!


長髪の美形の男性が小首を傾げ微笑んでいる。
羽と同じ色をした髪・・・水色の髪だ!



「ようこそ、お待ちしてました。 アヤですね」
「はい! アヤみゃ」




「僕の事、覚えていますか?」
「はい! みゃおの巣あみゃで・・・会いみゃした」



嬉しそうに頷いて・・・  ドキドキした。 綺麗だ・・・この人・・・
「覚えていてくれてありがとう、僕は『バラミュースの丘の3番人』のケント、治癒系調魔師だ」
「こちらこそ・・・あの時は失礼しみゃした」




「あぁ、いや・・・すまない。 何十年ぶりかで、巫子の素質を持つ者が現れた・・・と、もう待ちきれなくてね、一目合いたくてつい、会いに行ってしまったんだ」
「そうだったんですか」




「そうそう、僕らが止めるのも聞かずに、本当に困った奴だよ」
声のするほうに振り向くと、オレンジ色とピンク色の髪の男の人が立っていた。




「僕ら3人が、『バラミュースの番人』で、僕がラティス、攻撃系調魔師だ」
「そして、僕がハバト守備系調魔師だよ、アヤ・・・覚悟は出来てる? 結構サディスティックだよ 僕らは」




オレンジの髪がラティス、ピンクの髪がハバトか・・・3人とも美形の男達だ。
サディスティック?!
・・・えーとぉ・・・それは・・・スパルタで教えてくれるってことかな?





「みゃっ、よろしくおみぇがいしみゃす」
この際・・・覚えられそうな事は、ドンドン吸収しなきゃ。
僕は、早くマオに近づけるだけの力をつけないとダメなんだ。




「くすっ、よしわかったじゃ、僕から始めよう、アヤ・・・まずは、バラミュースの使用法からだな」
「みゃっ、ケントさん」




ケントは優しく、近くに居たバラミュースの傍に跪き、手の平で優しく包み込んだ。
桃色のバラミュースは光り輝き、ぽう・・・と大粒の種が空中に浮かんだ。




「まず種はこうして、取り出す。 わかるかい。 使用するには、乾燥させたのを磨り潰して粉にする・・・又は、蜜とあわせて団子にする」
「そして、蜜の取り方は・・・こうやって擽り、その涙をすかさず、容器に受け取る」




ケントは、バラミュースの優しく手に乗せると、動く根の部分を、コショコショと擽った。
バラミュースはとても擽ったそうに笑う・・・涙を流して笑い転げる・・・
それを、流れるような動作で、バラミュースの流した蜜を容器で受け取った。



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「じゃ、やってごらんアヤ・・・容器は・・・そう・・・アヤ・・・アヤは風球が出来るね・・・それに入れてごらん」
「みゃっケントさん」




早速やってみた。
まずは種の取り方から・・・両前足で、バラミュースを優しく包み込み・・・で、出来た!!
全部の色のバラミュース達の種をゲットした。




次は、蜜・・・か・・・どうしよう・・・風球か・・・僕小さいのって作った事無いのに・・・
それに、いつも僕の周りだけに張り巡らすんだし・・・
いや、そんな事言ってちゃダメ!
やる前から弱気でどうするのよ!
おーし、やるぞぉー!!




ん・・・どうしよう、ケントさんみたいに、バラミュースを持ち上げられない・・・
そか、ようは擽ればいいんジャン。
僕は、伏せをすると、傍に居た黄色いバラミュースの根を擽り出した。
持ち上げていたのと違い、バラミュースは笑いながら逃げ出した。




「みゃっ!! ダメェ動いちゃあ・・・待って黄色いバラミュースさん!」
ヤバイ!! ダメジャン・・・どうしよう。



他のバラミュース達にくすくすと笑われた。
うーん・・・
今度は、両前足で根元を押さえ込み、根を擽った・・・
バラミュースはクネクネ体を曲げながら笑い、涙が流れ・・・


「危ない!! ばかっ! アヤ」




ケントは素早く僕を抱き上げ、僕の前足に引っかかっていた、
黄色いバラミューを叩き落とした。
「ふみゃっ!!」




黄色いバラミュースの花から、蜜が一滴地面に落ち、
落ちた雫の周辺の草が、一瞬の内に石化した。  げっ!!




「みゃぁぁっ!!! 石化したみゃぁぁっ!!!」
驚いた・・・マジに驚いた・・・
ドキン ドキン! ドキン!!




「アヤ・・・黄色いバラミュースは、フォイシアと言って、石化の効力があるんだ。 蜜に直接触れれば、アヤ自身も石化するから、取り扱いには充分注意しないとダメだよ」
「みゃっ!! 気を付けみゃす」




黄色のバラミュースは 石化するのか・・・あービックリした。
あ・・・でも・・・じゃ、どうやって・・・




今度はピンクのバラミュースの傍に伏せずに座り、
片方の前足を根にかけて、もう片方で擽った。
多少ガタガタと動いてしまうが、大丈夫そうだ・・・




バラミュースが蜜を垂らし、僕は擽っている前足に気を集中させた。
風球・・・小さな風球・・・頭の中でイメージして・・・
ほわん・・・と風の球が・・・ゆらゆらと形作られて・・・
花びらから・・・雫が落ちた瞬間・・・風球の上が閉まり・・・閉じ込めた。
やったぁ!!




「ケントさん!! こんみゃ感じですか?」
ケントさんの方を振り返ると、大きく頷いている。
きゃっ この方法でいいみたい。 嬉しい♪




次々に全ての色のバラミュースの 蜜を採取した。
「小さい風球は、印を結んで、解けないようにすれば、気を抜いても壊れないからね」
「みゃっ・・・・いんって・・・どうやるんですか」




「うーん・・・アヤの場合なら・・・額から、その風球に向かって固まれって指令すればいい」
「みゃっ」




固まれ固まれ・・・額に気を集中させて、作り出した小風球に向かって、気を放った。
・・・・・・小風球は、真ん丸いカプセル状になって、空中に浮かび、
僕のリボンに吸い込まれた。


「みゃぁっ、僕のリボンみぃ!!」




「あぁ、大丈夫だよ、心配ない、 こうやって調魔された カプセルは、それを調魔した調魔師のリボンや、首輪、ピアスなどに自然に格納され、使用する際には、片手で触れるだけで取り出せるんだよ」




「みゃっ、そうみゃんですか・・・びっくりしたみゃ」
ドキドキだよぉ・・・てか、そうなる前に教えてくれると助かるんだけどな・・・




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